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神戸地方裁判所 昭和51年(行ウ)13号 判決

原告 三好英年

被告 神戸東労働基準監督署長

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五〇年一二月四日付神東基監指令第三四号でした解雇予告除外認定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の答弁

1  本案前の答弁

主文同旨

2  本案の答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は昭和五〇年七月一日から訴外香山徳一の経営する福美ギフト神戸店(以下訴外商店という)に歩合給(水揚高の二割六分)で雇傭されていたものであるが、訴外商店は原告が駐車禁止違反の身代りを拒否したことなどの理由で昭和五〇年一一月一六日原告に対し即時解雇の意思表示をした。

2  そして、訴外商店は同月二五日労働基準法(以下単に法という)二〇条一項但書後段、同条三項、一九条二項に基き、被告に対し解雇予告除外認定を申請したところ、被告は同年一二月四日神東基監指令第三四号をもつて申請どおりこれを認定した。(以下本件除外認定という)。

3  しかしながら、被告のなした本件除外認定には次のような違法があるので取消しを求める。

(一) 解雇予告の除外認定は解雇に際して必ず事前に履践されるべき手続であるのに、これを事後に行なつた違法がある。

(二) 被告は本件除外認定をなすに当り、単に訴外商店の虚偽の申告、疎明のみによつて審査し、原告に対し何らの弁明の機会を与えなかつた違法がある。

二  被告の本案前の主張

1  解雇予告除外認定は抗告訴訟の対象となる行政処分ではない。右除外認定はこれを受けなければ即時解雇の効力が生じないという即時解雇の効力発生要件ではないから、使用者は法二〇条一項但書の事由が存すれば当然解雇をなす権利を有し、この事由の存する限り行政官庁の認定を受けなくても即時解雇そのものは有効であり、また、認定をうけた場合でも、実際にその事由が存していない限り即時解雇は無効となる。すなわち、除外認定により、はじめて使用者に即時解雇や予告手当不支給の権利が付与されるという法律上の効果を生ずるものでないから、本件除外認定は原告の雇傭関係上の権利義務には何らの影響も与えないのである。

2  仮に、本件除外認定が抗告訴訟の対象となりうるとしても、本訴は出訴期間を徒過した不適法なものである。

すなわち、本件除外認定は昭和五〇年一二月四日付でなされ、その内容は被告から文書をもつて訴外商店のほか、同月八日付で原告にも送付し、同文書は同日または遅くともその数日後には原告方に到達しているから、そのころ原告は本件除外認定を知つたものであるのに、本訴はこれより三か月以上経過した昭和五一年四月二二日に提起されている。

三  請求原因に対する被告の答弁

1  請求原因1のうち、原告が昭和五〇年七月一日から訴外商店で勤務していたことは認めるが、その余は不知。

2  請求原因2は認める。

3  請求原因3は争う。

四  本案前の主張に対する原告の反論

1  解雇予告除外認定は抗告訴訟の対象となる行政処分である。被告が除外認定をなすと、使用者には法二〇条の予告手当の不支給の効果と利益が生じる反面、原告にとつてはたちまち即時解雇による生活の困窮を救済される道が閉ざされることになるから、除外認定は原告の本件雇傭関係上の権利義務に影響を与える行政処分である。

2  原告が本件除外認定のなされたことを知つた日は昭和五一年三月二二日であるから、本訴は出訴期間を徒過していない。

第三証拠〈省略〉

理由

先づ、被告の行つた解雇予告除外認定が抗告訴訟の対象となる行政処分であるかどうかについて検討する。

抗告訴訟の対象となる行政処分は、当該処分によつてこれを受ける者の権利義務に関し法律上の効果が発生するものであることを要するところ、法による解雇予告除外認定の制度は、使用者が労働者を解雇するに当り不当に予告手当の支払いを免れようとして法二〇条一項但書の除外事由の有無につき恣意的な判断をするのを防止するために、一応行政庁にその認定判断を経由させることによつて、使用者を指導監督し、もつて労働者の保護を図ることが目的である。したがつて、行政庁の行う除外認定をもつて使用者のなす即時解雇の意思表示の効力の発生要件としたものではなく、即時解雇の意思表示の法律上の効力は専ら法二〇条一項但書の除外事由の存否にかかる実体法上の問題であつて、行政庁の認定とは無関係であると解するのが相当である。それ故、このような行政行為はそれ自体として使用者と労働者の雇傭関係上の権利義務についてなんらの効果を発生させるものでなく、また平均賃金の不払を正当づけるものでもないから、被告の本件除外認定は行政事件訴訟法三条にいわゆる行政庁の公権力の行使に該当せず、抗告訴訟の対象とはならないといわざるをえない。

二 よつて、本訴請求は不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 永岡正毅 野田殷稔 小倉正三)

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